センチメンタル*宅配便
海と世界の間は薄い膜のような無重力空間で覆われているため、海水は落ちてこないのだそうだ。
水族館の大きな水槽の中を通る透明なトンネルを連想させた。
見上げると、魚が空の上を泳いでいる。
それってなんてステキな光景なんだろう。
「今、こうして眺めている星のほとんどは恒星で、自ら光を発しているだろう?そういった恒星の微かな光がクルックポーを覆う水面に入ってくると光が屈折して、ほんのりとパープル色の空になるんだ。だから、クルックポーはいつでも夜だけど、地球の夜とはちょっと違った雰囲気なんだ。」
「夜が明ける空みたいな感じ?」
それなら昨日も一昨日も君と一緒に見た。
「うん、近いかもね」と君は笑う。
私は瞼を閉じて、パープル色の空に浮かぶ、魚の群れを想像した。
たまに光が差し込んできらきらと水面が揺れる。
もしかしたら、地下の世界ではオーロラみたいに見えるのかもしれない。
そして海中に光る空いっぱいの星たち。
幻想的な光の世界。
「君はあの星座が描く四辺形の中からここにやって来たんだよね?海で覆われたクルックポーの地下世界からどうやって出たの?」
「クルックポーには定期的にブラックホールがやって来るんだよ。海の上に竜巻のように現れて、地下世界に顔を出す。ブラックホールは違う惑星に繋がっているんだよ。ボクはたまたまブラックホールに飲み込まれた。そして、着いた先が偶然、ここだったんだ」
そう言って君は微笑む。
月明かりの下、皮膚の下を巡る血管が解るくらいに透き通った君の肌は美しかった。