<短編>隣の席の不良くん



先生が手をパンパンと叩いて、授業の再開を告げる。
ざわついていた声も次第に静まり、みんな前へ向き直る。

私は小さな声で黒木くんに話しかけた。
たぶん、私から黒木くんに話しかけるのは初めてのことだ。


「あの、黒木くん…ごめんね」

「いーって。相沢が悪いわけじゃねぇんだし」

「…ごめん」

「そんなに謝りたいんだったらなぁ…」


黒木くんは一瞬考えるようなそぶりを見せてから、ニっと笑ってこっちを見た。


「今日の帰り、何かおごってくんね?」

「え…?」

「俺のこと、もっとちゃんと知って欲しいしな」

「…あ、うん」


無意識のうちに、承諾の返事をしてしまった。
黒木くんは満足そうな笑みを見せると、前へ向き直った。

私も前へ向き直るが、それ以降はどうしても先生の話が耳に入らなかった。
耳に入るのは、心臓が大きく脈打つ音だけ。
それは今まで黒木くんを前にして感じた鼓動とは、どうやら種類が違うらしかった。

でも、それがどんな意味を持つのかを、私はまだ知らない。




席替えは、まだ先でもいいかも。






【完】
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