君の笑顔が好きでした。
暖かい腕の中はとっても心が落ち着いた。
お母さんが包み込んでいてくれるようだった。
遥斗くんは優しく背中をさすってくれた。
こんな少しの優しさが本当に嬉しかった。


「…遥斗くん。」


「なぁに?」


「ありがとう。」


遥斗くんはもっと強く抱きしめてきた。


「そんな可愛いこと言わないで…もっと離したくなくなるから…。」


遥斗くんはこちらを見て微笑み返してくれた。
嬉しすぎて顔が緩みそうだった。

顔を必死に抑えていたら遥斗くんが周りを見渡しながら話しかけてきた。


「もう真っ暗だけど…大丈夫?」


あたりを見回すと日没していて人の気配も感じられなかった。


「送って帰ろうか?」
と言ってくれたのでうちは笑顔で頷いた。


そうしてベットをきれいにして保健室を出た。


廊下は誰もいる気配もなく真っ暗な道がずっと続いているように感じる。
ずっと歩いていたが話すこともなく足音だけが真っ暗な廊下に響き渡った。

不意に遥斗くんが話しかけてきた。

「寂しくない?こっちにおいでよ。」
手招きするようにするりとうちの手を握った。


「さ、寂しくなんかないから…気にしないで。」
その手を振り払おうとするが男の子の力にはかなわなかった。


「俺の前で嘘なんかつかないでって言ったじゃん…。」


うちはハッとしてうつむいた。
「別に寂しくなんかないし…。」気づいたらそう呟いていた。


「だって…目が…泣きそうになっているんだもん。」


「別に寂しくて泣いているんじゃないもん!」
うちは声を張り上げた。
寂しいんじゃない。遥斗くんが優しすぎて苦しいだけなんだ。


「もう…ほおっておいてよ…!」


その場に泣き崩れた。
泣きたくなんかなかったのに。
こんな迷惑かけるつもりなかったのに…。

そうして泣いていると遥斗くんが優しく抱きしめた。
優しく強く抱きしめた後泣いているうちの顔についた涙を優しく拭ってくれた。


「俺がそばにいてあげる…悠里ちゃんの苦しみや寂しさを俺が受け止めてあげるから…泣かないで…。」


切なく呟いた遥斗くんにしがみついてうちは言った。


「ありがとう…もう少しそばにいて…。」


「もちろん…!」


そのまま遥斗くんを強く抱きしめた。

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