君の笑顔が好きでした。
泣き叫ぶ悠里の話をしばらく無言で聞いていた。
泣き叫び疲れたのか壁にもたれて眠っていた。
眠る彼女は辛そうに涙を一筋流した。
俺は部活を休み、悠里をおんぶして家まで送ることにした。
悠里は背中にピタっとついてしがみついていた。

「パパ…ママ…ねぇ?」

寝言を言いながらまた泣いていた。
夢の中まで辛い夢を見ている悠里が可哀想になってきた。
今まで悩んでいた俺が馬鹿に見えてきた。
俺より苦しんでいる人なんてたくさんいるのに…。
悠里の気持ちもわかってやれなかったのに。

そう考えているうちに俺はしだいと足取りが重くなっていた。


悠里の家についたのでソファに寝かして帰ろうって思った。
俺は恐る恐るドアを開けた。

「お邪魔します…」

ドアを開けると中は真っ暗だった。
話し声もテレビの音さえ聞こえない。
親が帰ってきていないのだと俺は思った。

リビングに行くとシンプルに統一された清潔感のある部屋だった。
悠里をソファに寝かせて俺は部屋を見回した。
テーブルの上にはたくさんの薬の山があった。
壁には写真がはっているようなので俺は見ることにした。

「…?」

写真には小さな悠里と両親が満面の笑みで写っていた。
だがほとんどの写真はおばあさんと楽しくなさそうな悠里の写真しかなかった。
それでもまだ小さい時の写真だけだった。
両親が離婚でもしたのだろうか…?

「…何見てるの?」

俺は後ろを振り返ると悠里が起きていた。

「人の写真は見るもんじゃないよ」

「お前…親は?」

『親』って言葉を聞いた瞬間悠里が反応した。

「別に…なんでもないよ」

そう言って視線を逸らした悠里の顔はとても苦しそうだった。
だが悠里は言った。

「とてもいい親だったし最低な親でもあった」

「お前がそんな話するから思い出しちゃうじゃん…!」


悠里は顔を隠しながら泣いた。

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