パツ子と甘えん坊くん。



「朝練に遅れたのをあたしのせいにされたくないから、急いで来たの!」



奴の厚い胸板から顔を離し、頬を膨らましてそっぽを向く。



言いたいことを言えずにまた意地を張ってしまった。



いつものことで慣れているのか奴はふっと笑った。



そして毎朝必ず言う一言。



「小夏、おはよ。今日も前髪揃ってるね」



奴は手で眉毛辺りを真っ直ぐに線を引いた。
パッツンだね、とでも言いたいんでしょ。



毎朝これを言われて朝から心臓の鼓動がうるさいの、アンタは知らないでしょ?



知らないこいつは微笑んで「行こう?」と言って手を差し出してくる。



あたしはそっぽを向いたままその手を取る。


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