*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
汀は満足気に屋根に腰を下ろし、笑顔のまま東の空に目を向けた。





はるか遠く、山々が連なっているのが見える。





華月京の周りに広がる壮大な風景に、汀は息を呑んだ。







「…………あぁ、なんてきれいなの」






「…………」







灯も溜め息をついて、汀の隣に座った。






汀の言葉どおり、細い有明月は、山の端から洩れ出してくる朝の光に霞んでいく。






青みの増してきた西の空に浮かぶ月は、その薄藍色に溶けていくように、白く透けはじめた。






その透明で無垢な美しさは、どこか汀に似ている、と灯は心に思う。






二人は身動きもとらずに、月と朝焼けを見つめていた。






そしてとうとう、輝く真朱色に輪郭を縁取られた山の端から、朝日が姿を現す。









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