*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
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しんと静まり返った塗籠の中で、灯は畳の上にごろりと寝転がって天井を見つめている。
(…………静かだな)
ぼんやりと、そう思う。
今日は朝から汀がいない。
父の兼親に連れられて、寺へ物詣に出かけると言っていた。
女房の露草も随伴しているので、北の対にはひと気がなかった。
「……………ふぅ」
大きな溜め息を吐き出した灯は、ゆっくりと身を起こした。
試みに、汀が置いていった筝の弦を弾いてみた。
びぃん、と塗籠の中を満たした弦の音の中に、ある気配を感じ取った灯は、ふいと顔を上げる。
「……………」
耳をぴくりと動かし、首を巡らせた。