*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「俺は今まで、灯が油断するところなんて見たことないけどな。


なにかに気をとられでもしたんじゃないの?」







皮肉っぽい笑みを浮かべる藤波を、灯は軽く小突いた。





その様子を微笑みながら見ていた卯花は、空気を変えるように声を高くする。







「さぁ、灯。

早く行きましょう」







その声に糸萩も頷く。







「そうだよ。帰ろう、灯。

僕たちの白縫山にーーー」







楪葉が灯の腕を引いた。







「みんな灯を待ってるよ。

群雲(ムラクモ)も檀弓(マユミ)も、心配してる」







しかし灯は、わずかに戸惑ったような表情になる。







「…………今、すぐに、か?」







その言葉に卯花は眉を顰める。







「そうよ。何か問題がある?」






「…………いや」







灯は否定したが、動き出そうとはしなかった。






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