*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「どうしたのさ、灯」







藤波が怪訝そうな顔で訊ねる。







「………いや、別に。


ただ…………」







「ただ、何?」







「………いや、こんな昼間に出たら、人目を引いてしまう」








すると楪葉が、懐から大判の麻布を取り出した。







「大丈夫だよ、灯!!


ちゃんと目隠しの布を持ってきたから!


これを頭から被って、髪が見えないようにすれば、灯が火影童子だなんて誰も気づかない!」







「…………そうだな。ありがとう」







楪葉が自慢気に言うので、灯は苦笑した。







「この邸にも衛兵がたくさんいたけどさ、僕たちが引きつけておくから。


だから灯は、目立たない裏庭から出れば大丈夫だよ!」







糸萩は任せてと言わんばかりに自分の胸を叩いた。





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