*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
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「…………?
なんだか騒がしいわね………」
物詣から帰って牛車を降りた汀は、邸の奥から人声や物音が聞こえてきた気がして、首を傾げた。
顔を隠すため頭に被った市女笠(いちめがさ)の垂れ衣の陰から、様子を窺う。
露草も耳を澄まし、不安そうに眉を顰めながら同意するように頷いた。
「なにか騒いでいるようですわね………」
後から降りてきた兼親が、足を止めた汀に気づいて声をかける。
「どうかしたか、六の君」
「父上………なにか邸が騒がしいようなのです」
そのとき、邸の中から舎人たちが走り出てきた。
「何があったのだ」
兼親に訊ねられ、舎人たちは慌てふためく。
「何者かが邸内に侵入したようで………今、人を集めて邸じゅうを探させております!」
「なんと、また盗人が入ったのか………」
兼親は蒼白になって呻いた。