*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
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「……………ふぅ」
汀は高坏の上に羹の器と箸を戻し、溜め息をついた。
食事がはかどらない主君の様子を、露草は側に控えながら心配そうに見つめている。
「………姫さま。
食欲がございませんか」
「………いえ、そういうわけじゃないのよ………」
汀は否定したが、とはいえ、いつも通りというわけではない。
貴族の食事といえば、飯に羹に膾に香物に菓子に、たくさんの種類の料理が出されるが、一口ずつしか箸をつけないのが慣例である。
しかし汀はいつも、どの料理の器も全て空にしてしまうのだ。
初めはたいそう驚いた露草であったが、いつの間にかそれに慣れてしまった。
だから、今日のように器に食物が残ったままになっていると、どうにも落ち着かないというか、心配になってしまうのだ。