*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
作業場としている大きな老木の洞穴から出ると、群雲は伸びをして眼下の景色を眺めた。




その老木は、白縫山の斜面に生えており、そこに立つと、白縫党の仲間が住む家々がはっきりと臨めるのだ。





樹々が鬱蒼と繁るなかに、ぽっかりと開けた空間に、白縫党の集落があった。




洗濯物を干したり炊事をしたりする女たちと、その周囲で遊び回る子供たち。




群雲は知らず微笑んでいた。






そこに、斜面を上ってくる五人の人影が、群雲の目に入ってくる。





「灯、四つ子。


よく帰ったな」





群雲は上から声をかけた。




灯が応えるように軽く腕を上げ、楪葉が元気よく手を振る。






群雲はその優しげな目許を、さらに和らげた。





そして、老木の背後にそびえる崖の裂け目の中に、灯たちを導き入れる。





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