*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「…………俺たちの分は?」





隅の壁に背をつけて離れて座っていた藤波が、呟くように訊ねる。



群雲はちらりと藤波を見て笑った。





「四つ子たちにはまだ早い」




「なんだよ。

灯を連れ戻した褒美に、少しくらい飲ませてくれたって………」




不服そうに言う藤波の方に、群雲は鮮やかな山吹色の丸いものを放った。





「お前たちには、それだ」




「………柑子(こうじ)かよ」





四つ子は「つまんないの」などと言い合いながら、柑子の皮を剥き始めた。





その様子を、群雲はいかにも微笑ましいというように眺めた。





(………群雲め、おっさんかよ)





灯はそう思ったが、もちろん口には出さなかった。






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