*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
群雲と灯は軽く碗を触れ合わせ、一口酒を含んだ。





「………ずいぶん都でのんびりしてきたんだな、灯」





群雲は眉を上げて灯の顔を見る。





「………まぁな」




灯は碗を揺らしながら小さく答えた。






「下調べに行ってくれてた藤波から聞いたぞ?

矢傷だってなぁ。


怪我はもういいのか」






「ああ、すっかり元通りさ」






「うそつけ。

さっき座るとき、動きが少しぎこちなかったぞ」






群雲が笑いながら言った。




灯は苦笑を浮かべてちらりと群雲の顔を窺う。






「………ふん、お前に嘘はつけないな」






「そりゃあそうさ。


俺たちは兄弟のように育ったんだから。


お前の様子がいつもと違うのくらい、すぐに分かるさ」







その言葉に、灯は肩を竦めて俯いた。





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