*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「…………うーん。俺も、母親のことなんて知らないからなぁ」





困ったように空を見上げる灯を、小桃は目を見開いて見つめた。





「………灯もお母さんを知らないの?」



「あぁ。気がついたら疾風のところにいたからなぁ」





ぼんやりと思い出すように言う灯の言葉に、小桃はぱっと顔を輝かせた。





「ハヤテって、群雲のお父さんだよね」



「そうさ。先代の頭領だよ」



「どんな人だったの?」





灯が穏やかに目許を緩める。





「……群雲に似てたよ、見た目も性格も」



「へぇ」



「豪快で優しくて、人望があって、男らしい人だった」



「ふぅん………小桃も会ってみたかったなぁ」



「きっと、すぐに好きになったよ」





すると小桃が首を傾げる。





「………どうして死んじゃったの?」



「仲間を守るために怪我をして、その傷がもとで、な」



「そっかぁ………」





そんな話をしているうちに、朽葉丸の住処が見えてきた。





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