*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「あっ、こっち見てる!」




小桃が嬉しそうに、声を抑えて叫ぶ。




灯は黙って子犬を見つめた。





そろそろと、子犬がこちらへ近づいてくる。




「………こっちに来る!」



「じっとしてろよ、小桃」



「うん!」





刺激しないように静かに待っていると、あと数歩のところまで、子犬がそろそろと寄ってきた。





灯はゆっくりと腰をおろし、子犬と視線を合わせる。




そのままの姿勢でとまっていると、子犬のほうから距離を縮めてきた。





くぅん、と一言鳴いて、灯の足に擦り寄る。



尻尾をふるふると振りはじめた。




緊張と警戒が解けたのを確かめて、灯はそっと抱き上げた。





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