*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
露草の言葉を、汀はぼんやりと聞いていた。





「………そうよね。


父上のためにも、私に巡ってきたこの幸運は、何としてでも手にしなければならないものよね………」





「はい………」






それでもどこか複雑そうな表情の汀を、露草は不安げに見つめる。




そして、夜着の上に握られた汀の手が、わずかに震えているのに気がついた。





「…………姫さま」





汀はゆっくりと露草を見た。




燭台の明かりを受けて、微かに揺れるような不思議な色合いの瞳を真っ直ぐに向けられ、露草は見惚れてしまう。





「………ねぇ、露草」




「はい………」




「ーーーこんな色の瞳をした私が、本当に、春宮さまの妃などつとまるのかしら」






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