*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
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「灯ー!!」
白縫村から少し離れたところに生えている、ひときわ背の高い樹。
その天辺に近い枝に座って、遥か遠くに見える華月京の町並みをぼんやりと眺めていた灯は、自分を呼ぶ声を聞いて視線を落とした。
遥か下の根元のところに、卯花が立っていた。
「………どうした、卯花」
灯は樹の上から声をかける。
「ちょっと降りてきてちょうだい!」
卯花がそう叫ぶので、灯は「わかった」と呟いて、ひょいと枝から飛び降りた。
下で待っていた卯花が、ほとんど音もなく着地した灯に目を丸くする。
「………灯ったら、相変わらず身軽ねぇ」
「………そうか? たいしたことないさ」
「いえ、こーんな高い樹のてっぺんから飛び降りるなんて、普通では考えられないわ」
「…………」
「いったい、どういう身体をしてるのかしら」
卯花が眉根を寄せながら灯の脚を眺めるが、灯は構わずに歩き出した。