*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
しばらくそうしていた灯だったが。






「…………あっちかな」





東の方に視線を止めて、確かめるようにもう一度息を吸った。





「………うん、子犬の匂いがする。



あっちにいるだろう、たぶん百歩くらい行ったところに」






その言葉に、卯花はまたもや目を丸くする。





「わかるの? こんな所から………」




「犬の匂いは独特だからな。


それに子犬は乳くさいから、すぐに分かるよ」




「………相変わらず鼻もきくわねぇ」




「ちょっとだけだよ」





灯は苦笑を浮かべて卯花を見下ろしてから、子犬がいると思しき方向に歩き出した。






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