*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
そこに、藤波がやって来た。




「灯、ちょっと」



「ん?」



「群雲が呼んで来いって」



「そうか」




灯と藤波は連れ立って歩き始めた。




二人とも基本的に口数が少ないので、特に会話もなく歩き続ける。





灯は、頭上に繁る樹々の梢の間から覗く雲ひとつない真っ青な空を、ぼんやりと仰いでいる。



藤波もつられたように見上げて、ふいに口を開いた。





「………ねぇ、灯」




「………ん?」





春風に揺れる灯の緋色の髪を見つめながら、呟くように藤波が訊ねる。





「………あのさ。


灯がいた東二条殿の………あの、空色の目の人は、なんだったの」





「………え?」





灯はどこか戸惑ったように、視線を藤波に向けた。






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