*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
*
「群雲。呼んできたよ」
「ああ、藤波。ありがとな」
灯を連れて洞窟に入って来た藤波に、群雲は笑いかけた。
「どうしたんだ、群雲」
灯が首を傾げながら群雲の前に座る。
藤波もその傍らに腰を下ろした。
「ああ、今から話すよ」
そう言って群雲は、灯と藤波の前に碗を置いた。
灯が座ったまま鼻を動かし、「麦湯か」と呟く。
群雲は「当たりだよ」と苦笑した。
藤波は驚いたように碗を手に取り、鼻を近づけて匂いを嗅ぎ、「ほんとだ」と感嘆した。
「今日は酒じゃないんだな?」
灯が冗談ぽく言うと、群雲は「兄貴をいじめるなよ」と肩を竦めた。