*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語







「群雲。呼んできたよ」




「ああ、藤波。ありがとな」





灯を連れて洞窟に入って来た藤波に、群雲は笑いかけた。






「どうしたんだ、群雲」




灯が首を傾げながら群雲の前に座る。



藤波もその傍らに腰を下ろした。




「ああ、今から話すよ」




そう言って群雲は、灯と藤波の前に碗を置いた。




灯が座ったまま鼻を動かし、「麦湯か」と呟く。



群雲は「当たりだよ」と苦笑した。




藤波は驚いたように碗を手に取り、鼻を近づけて匂いを嗅ぎ、「ほんとだ」と感嘆した。





「今日は酒じゃないんだな?」





灯が冗談ぽく言うと、群雲は「兄貴をいじめるなよ」と肩を竦めた。






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