*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
*
「ねぇ、聞きまして?」
「まぁ、なにを?」
「左近の大将殿のお話よ!」
台盤所の下女たちが、遠慮がちに声を低めながらも、好奇心を抑えきれないような様子で顔を寄せ合っている。
情報通で知られる吊り目の下女が、周囲の数人を集めて新しい噂話を吹聴しようというのだ。
「左近の大将殿がどうかなすって?」
「あのね………ゆうべ、出たんですってよ!!」
「ま、物の怪が!?」
「違うわよ! 火影童子と白縫党が!」
「ええっ!」
「ついこの間、このお邸にも現れたばかりじゃないの!!」
「なんて恐ろしい!!」