*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
簀子の向こうの庭先にひっそりと佇んでいたのは、年の頃まだ十にも満たないと思われる男童であった。




男童はその手に、漆の黒地に華やかな螺鈿で装飾された、典雅な硯箱を持っていた。





「ーーー六の君さまへ、お届けものでございます。


お納めくださいませ………」






男童は呟くように言い、深く会釈をした。




露草は「お預かりいたします」と儀礼的な返事をし、簀子まで降りていって硯箱を受け取った。





男童はそれを確認すると、小さく言う。





「お返事を持ち帰って参れとの仰せでしたので、待たせていただきます」




「分かりました、いますぐ、主人に渡して参りますので、しばらくお待ちくださいませ」









< 270 / 650 >

この作品をシェア

pagetop