*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
露草は硯箱を掲げ持ち、汀のもとへと戻った。





汀は手習いをしている筆先に目を落としたまま、何気なく訊ねる。





「なんだったの? 露草」





露草は螺鈿の硯箱を、汀の座る文台のかたわらへ、音もなく置いた。





「あら、なぁに」





汀は気づいて硯箱を見たあと、露草へと視線を向けた。






「ーーー春宮さまからの………」






その一言で、汀は目を見開いた。





再び硯箱に視線を落とし、そのまま動かない。





「………姫さま?」





「………露草、開けてみて」





露草が頷き、「畏れながら………」と呟きながら硯箱の蓋をとりあげた。










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