*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
露草は頷き、言葉を続ける。





「そうですわ、姫さま。


ですが、顔も知らない人と、というのは何も問題ございません。



だって、お文の文面や、筆跡、紙の選び方などを御覧になれば、おのずとお人柄が知れるではありませんか」






「…………そういうものかしら」







汀は首を捻りながら、露草の手にある春宮からの文を覗きこむ。







「ほら、どうぞ御覧になってくださいまし、姫さま。



春宮さまのお筆の、なんとお美しいこと!


たいそうご才気の溢れる御方なのだと分かりますわ。



それに、この風流な結び文………。


お歌に合わせた蕾桜の枝に、薄花桜の襲の薄様、なんとも雅やかなではございませんか」






「そうかしらねぇ」






「そうでございますとも。


そしてお歌は、言いようもないほど見事でございます。



春ーーーつまり姫さまとの逢瀬がまだ遠く、姫さまへの恋心がまだ花開くことができずに蕾んだままであることを、しみじみとあわれにお思いであるということですわ。




まぁ、素敵なお文ですこと。



姫さま、このような素晴らしい御方に想われなさって、お幸せでございますわね………」






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