*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
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結局汀は、春宮からの和歌に対して気の利いた返歌など思いつくわけもなく。
「畏れ多いですわ!」とごねる露草を説き伏せて、それらしい返歌を作ってもらった。
その歌を汀が萌黄色の薄様に書きつけ、紅花で染めた赤花色の薄様と重ねて、若々しい桜萌黄の重ね文にして、使いの男童に持たせた。
そうして、一夜明けて。
汀は今、廂に座り込み、柱にもたれて、庭で遊ぶ青丹丸をぼんやり眺めている。
(………なんだか、不思議な気分。
私の知らないところで、物事がどんどん進んでいるみたい。
ーーーこれから、どうなるのかしら)
汀は漠然とした不安に包まれていた。
「………あぁ、そういえば、今日は望月ね………」
そう独りごちる。
ゆうべは春宮からの突然の文に驚き、小望月を眺める余裕もなかったのだ。
「今夜は久々にお月見でもしようかしら………」
そう呟いてはみるものの、なんだか乗り気になれずに、汀はふぅ、と溜め息を吐き出した。