*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
その人物の顔を見た瞬間、汀は口許を押さえて叫び声を洩らした。










(……………蘇芳丸、じゃないーーー)






満月を背に立つ人影は、見たこともない男だった。






烏帽子をかぶり、直衣(のうし)を着ている。







突然に御簾の隙間から顔を出した汀を見て、男は驚きに目を瞠った。






「…………おぉ、なんと、珍妙なーーー」







男の目は、大きく見開かれた汀の瞳にひたと止められている。







その瞳は、目映い月影を真っ直ぐに受けて、明るい勿忘草色に煌めいていた。







「…………なんとまぁ、不可思議なこともあるものよ………」








男はごくりと咽喉を鳴らした。










< 283 / 650 >

この作品をシェア

pagetop