*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
汀と男は、しばらくの間、声もなく静かに見つめあった。







その沈黙の居心地悪さに、汀がふと我に返る。







「………あ、失礼を致しました。



知り合いの者が来たのかと思いまして………。



思わず出て来てしまいました」








汀は頭を下げ、御簾から手を離そうとした。





すると男が、ばっと汀の手を掴んだ。






「ーーー六の君よ!!



今宵、我が妻になってくれるな!?」







「ーーーは?」







汀は怪訝な表情で、腕を掴まれたまま首を傾げた。






しかし男は、白皙の美貌の中の、青き瞳をじっと見つめている。






そのまま、汀を抱えて母屋の中に入ろうとした。







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