*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
春宮の吐息が耳にかかり、汀の背筋に怖気が走った。






(…………いや、いやっ!!)






その様子に気づくことなく、春宮は汀の首筋を舌で愛ではじめた。







「……………っ!!」







汀は顔を背け、本能的に逃れようとする。




しかし、しっかりと抱きしめられた身体は、思うようには動かすことができなかった。








(…………あぁ、だれか、だれかーーーっ!!)







汀は助けを求めるように視線を泳がせる。





几帳の隙間から覗く御簾の向こうに、望月が輝いている。






まだ東の空低くにある月は、不気味なほどに、赤かった。










(たすけて………)








汀の唇が、声もなく震える。









(ーーー蘇芳丸………)








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