*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
芳正が去った後、春宮はおもむろに立ち上がった。






塗籠のさらに奥にひっそりとある、春宮が『宝物殿』と名付けている部屋へと足を運ぶ。




内匠寮(うちのたくみのつかさ)の雑工の中で、最も器用で最も口の固い細工師に命じて密かに作らせた、春宮の集めた秘宝の収蔵庫である。





春宮は浮き浮きとした様子で、愛する珍品たちを眺める。






夜中にひっそりと鬼の目が動く、という地獄絵図屏風。



雨の中たたずむ女の髪が少しずつ伸びているという掛け軸。



はるか古の人々が実は卓越した技術を持っていて、空を飛んでいた証拠とされる人工の翼の欠片。



月の都に住むと言われる月人男がかぐや姫に贈ったという文。



月から降ってきたという石の欠片。







この国だけでなく、唐や天竺から取り寄せた、ありとあらゆる胡散臭いものものが、この部屋に収められていた。







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