*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
答えを待つ露草の目を、汀はまっすぐに見つめた。






「…………お母さまのためよ」




「母君、ですか?」




「そうよ」





露草は目を瞬かせる。



汀の母親の話など、一度も聞いたことがなかったからだ。





妻問婚を慣例とする華月京の貴族たちは、男が女の家へと訪れることで婚姻が成り立っている。



そうして子が産まれると、そのまま母親の家で育てられるのが常である。




時には、経済的に裕福な男が自らの邸を建て、そこに妻子ともに引き取り住まわせることもあるが、やはり女親の家で育つ者が大多数なのだ。





それなのに、汀は一人だけで父の邸に引き取られている。




もしや汀の母親はもうこの世にいないのではないか、と露草は思っていたのだが。







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