*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
その理由は、もちろん知れている。





ーーー六の君の置かれた、特殊な環境だ。



その環境のせいで、この姫は、父君に遠慮をしているのだ。




なるべく目立たないように、貴族の姫君としての枠から外れないように、奥ゆかしい娘と見られるように。




………それは、この活発な姫にとって、たいそう息のつまることであるだろう。



しかし、露草の懸念をよそに、六の君はどこか飄々とした様子で、暗い顔を見せることもなく日々を過ごしていた。







物思わしげにじっと見つめる露草の前で、六の君は甲斐甲斐しく男の世話を焼く。




女童に用意させた湯に、雑仕の少女が持ってきてくれた布を浸し、男の身体についた土汚れや血を拭う。



その手つきは、へたな下女よりもよっぽと手際がよかった。





(水を得た魚のようだわ)と、露草はしみじみと嘆息する。






(前のお邸では、このようなお仕事まで手ずからなさっていたのかしら)






この二条邸にやって来る前の六の君がどのような生活をしていたのか、露草は全く知らされていない。





六の君自身も、みずから進んでそのような話をすることはなかったので、露草は想像をめぐらせるばかりだ。





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