*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「………あぁ、そうだわ、露草」







露草が、冷たい床に横になっている男にかけるための夜具を持ってくると、六の君がふと思いついたように振り返った。








「ねぇ、露草。


えぇと、シラヌイヤマの、ホカゲドウジ………って、知ってる?」







「………え、えぇっ!!」








六の君に問われた露草は、手を口許に当てて目を大きく見開いた。







「し、白縫山の、火影童子………っ!?」







その反応を見て、六の君はにこっと嬉しそうに笑う。







「あら、知ってるのね? よかった」







露草は焦ったようにきょろきょろと周囲に視線を走らせ、声を潜めた。







「し、知っているもなにも……。


姫さまはご存知ありませんのですか?



あの有名な、白縫山の火影童子を……」








露草があまりにもひどく動揺しているので、六の君は不思議そうに首を傾げる。








「うーん、聞いたことないわねぇ。


私、田舎育ちだから、都の事情には疎いのよ」








それを聞いて、露草はごくりと喉を鳴らした。





そして、意を決したように口を開く。








「火影童子、というのは。



…………白縫山に巣食う、盗賊の一員ですわ」






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