*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
すると、千瀬が痛ましいとでも言いたげな表情になった。





その顔に、汀の不安が膨れ上がる。







「ーーーーーどういうこと?


ねぇ、どういうことなの?



教えてちょうだい…………」







汀は簀子縁まで下りていき、中腰になって千瀬の肩をつかんだ。




千瀬が意を決したように、語り出す。







「…………おそれながら。


あなたさまのお父君、右大臣さまはーーーお母君のもとへは、お通いになっておりません………」








「……………え」








汀は、はじめ意味が分からず、不可解な表情をしていた。




それを見て、千瀬は眉根を寄せて視線を落とし、目を伏せたまま言葉を続けた。







「汀さまが家を出られて、この東二条邸にお引き取られなさって以来、一度も…………お父君はお母君のもとへいらっしゃってはおられないのです」






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