*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
ーーー全てが崩れ落ちる、途方もない音。
それを、汀は聴いたような気がした。
これまで信じてきた、そして縋ってきた全てのものが、まったく意味を失った。
(ーーーなんてこと。
父上は…………嘘をついていたんだわ。
私にーーー嘘を………。
ご病気のお母さまのご様子をちゃんと見に行って、お世話をして差し上げているというのは。
全部、嘘だったーーーーー)
汀はゆっくりとしゃがみ込み、俯いた顔を両手で覆った。