*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
汀が泣いているのかと思い、千瀬は慌てて近寄った。





しかし、指の間から覗く目は、きつく閉じられてはいるものの、涙は滲んでいなかった。








「…………汀さま?」






「…………大丈夫よ、千瀬」







深く嘆息した後、汀は顔を上げた。







「ーーーーーお母さまは、どうなさっているの?」






問われて、千瀬は小さく頷いた。






「………あまり、よろしくはありません。


薬師の話では、栄養のあるものをしっかり召し上がっていただきなさい、ということなのですが………。



そのような食べ物が、充分には手に入らない状況なのです………」







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