*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「…………え? なぜ?」






昨年は天候に恵まれ、地方では豊作続きだったと聞く。




なので、食糧が不足しているはずはない。





それなのに、母のために必要な食べ物が手に入らないと千瀬が言うので、汀は不思議そうな顔をした。





すると千瀬が、言いにくそうに口を開く。





「あの………今は、殿が官(つかさ)を頂いていらっしゃいませんので、その………収入が……………」






千瀬の言う『殿』とは、汀の実家の主人である祖父のことである。




たしかに祖父は高齢で、今は官職を任命されていない。





そのため、収入が途絶えているというのだ。






いくら都外れの育ちとはいえ、貴族の姫として育った汀にとって、そのような千瀬の言葉は全く予想だにしていないものだった。








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