*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「ーーーえぇと、つまり。


うちは今、お金がなくて、………食べるものにも困っている、ということ………?」






信じられないといった表情の汀に、千瀬は静かに頷き返した。







「………さようにございます。



二年ほど前からは、お仕えしている者たちにお支払いなさるはずの給金もご用意できなくおなりになって。




今や、使用人たちもーーーほとんどが他家へ移っていきました」









ーーー汀の脳裏に浮かんだのは。





屋根の修繕もままならず、冷たい雨風にさらされながら。




傷んだ薄手の衣装を重ねて、なんとか寒さをしのぎ。




栄養価の低い粗末な食事で、なんとか飢えをしのぎ。




艶を失ってしまった黒髪を床にひろげ。



痩せ細って衰えた、自らの腕を手枕にして眠る…………






あまりにも哀れな、母の姿だった。







< 375 / 650 >

この作品をシェア

pagetop