*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
汀は再び、顔を俯けた。




その表情は艶やかな黒髪に隠されて、千瀬には窺い知ることもできない。






「…………父上は」






いつになく低い声音で、汀が呟く。







「父上は、お母さまのもとへお通いになっていらっしゃらないだけでなく………。



衣食のお世話さえ、して差し上げていらっしゃらないーーーということ?」







その声は、抑えきれないように震えていた。





千瀬は声もなく、首を縦に振る。







「…………お母さまは、私がここへ来てから、ずぅっと、ずぅっとーーーご病気に苦しんでいらしたの?」







千瀬はもう一度、頷いた。








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