*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「ーーー私のような身分のものが、このように汀さまを追って、お父君、右大臣さまのお邸までお邪魔したこと………。



差し出がましいこととは、充分承知しております。




しかし………私は、居ても立ってもいられなかったのでございます」








千瀬が潤んだ瞳で、俯いたままの汀を見つめる。







「汀さまが、春宮さまに入内なさると聞き及びまして………。



きっとそれは、汀さまのご意志ではなく、お父君のために違いないと………。





貴女さまのように伸びやかなお方が、宮仕えをなさるなど………きっと、おつらいことに違いございません。




それでも、お父君のために入内をお決めになったのだと…………」








汀はゆっくりと顔を上げ、焦点の合わないような瞳で千瀬の方を見る。








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