*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「………盗賊……?」







六の君は小さく繰り返し、ちらりと男を見た。




その仕草に、露草がはっと息を呑む。








「………ひ、ひめさま……。


………ま、ま………まさか………?」








露草は言い切ることができず、戸惑ったように口許を袖で隠した。





しかし、六の君の薄藍の瞳に言葉を促すように見つめられ、言わずにはいられないと感じる。





ごくりと唾を飲み込み、息を整えてから、ゆっくりと塗籠の中に横たわる男を見やった。





そして、やっとのことで言葉を紡ぎ出す。







「………その者、その紅き髪の者………まさか、白縫山の、火影童子なのではーーー?」








その名を口に出すことさえも憚られる、といった風情の露草に、六の君は微かに眉根を寄せた。





訝し気な表情の六の君は、露草に語りかける。








「あら、まだ分からないわよ? 露草。



確かに、その人の近くで、シラヌイヤマのホカゲドウジ、って言葉が聞こえたけど。



でもまだ、確証はないわ。


本人に聞いてみなきゃ分からないもの。



だから、一方的にその人が盗賊だなんて、決めつけちゃいけないわ」







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