*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
三条大路の脇の細い小路にあるこの宿屋の屋根からは、二条大路の右大臣邸がぼんやりと見て取れる。
板葺き屋根の端から顔を覗かせた藤波の腕を取り、登る手助けをしてやりながら、灯は二条の方へ視線を投げている。
「…………なにか見えるの?」
「いや………まだよく分からない」
灯は無表情のまま真っ直ぐに視線を送り続ける。
その全身が緊張にはりつめ、全ての感覚が右大臣邸の方に向けられているのを、藤波は感じた。
風が吹き、灯の柔らかい髪が舞い上がる。
「……………あ」
板葺き屋根の端から顔を覗かせた藤波の腕を取り、登る手助けをしてやりながら、灯は二条の方へ視線を投げている。
「…………なにか見えるの?」
「いや………まだよく分からない」
灯は無表情のまま真っ直ぐに視線を送り続ける。
その全身が緊張にはりつめ、全ての感覚が右大臣邸の方に向けられているのを、藤波は感じた。
風が吹き、灯の柔らかい髪が舞い上がる。
「……………あ」