*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
灯は築地の外から、中の様子に聞き耳を立てていた。




しかし、邸内で交わされる怒号を耳にして、突如がっくりと項垂れたので、藤波は驚いた。






「えっ、なに? どうしたの灯!!」






思い切り眉をしかめ、目を細めた険しい表情を浮かべた顔を、灯はゆっくりと上げた。








「ーーーーー逃げたらしい」








「………………………はぁ?」









藤波が眉根を寄せて口を半開きにした。







灯は頭をくしゃくしゃと掻き乱しながら、繰り返した。








「…………だから、逃げちまったんだよ。


あいつは………六の君は!!



どうやら、お目付役の女房まで連れて、な!」








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