*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
舎人から汀の身柄を渡された女たちに囲まれて、汀たちは北の対へと向かう。





その途中の透渡殿(すきわたどの)で、汀はこっそりと藤波に近づいた。






「………ねぇ、藤波くん。


あなたは、逃げて。



蘇芳丸を救い出さなきゃならないでしょ」






その言葉に、藤波は首を傾げる。







「………は? すおうまろ?」








怪訝そうな声に、汀がしまったという表情になる。






「あっ、まちがった! 灯のことよ」





「…………なに、すおうまろって」





「私が昔飼ってた犬の名前」







藤波はずっこけそうになったが、なんとか堪えた。







(あの灯を、犬よばわりしてたのか?


とことんぶっ飛んだお姫さんだな………)







可笑しく思いながら、汀に小声で訊ね返す。







「………でもさ、逃げるったって、この状況………」






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