*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
その隙に、汀がするすると藤波のところにやって来た。







「…………さっ、藤波くん! 今よ!」






つられて思わず月を見上げていた藤波は、肩を叩かれて「はっ?」と振り向く。






「ほら、今よ、逃げて!!」





「………へっ!? ………あ、はいっ!」






促すように汀から背中を押されて、藤波は慌てて渡殿から飛び降りた。









邸の外へ向かって物陰を駆けながら、藤波は苦笑してしまう。







(………なんなんだ、あのお姫さんは。



ーーー月の都の天人が来たって?



信じらんない、あれで皆の目を誤魔化したつもり?



………いや、確かに誤魔化せたんだけど。




なんて古典的な………)







事態が差し迫っていることも忘れて、汀のことを可笑しく思い出してしまう。





そのまま藤波は、汀が発見されて気の緩んだ警備の穴を抜い、白縫山へと向かった。









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