*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
東二条殿(とうにじょうどの)ーーー右大臣・荻原兼親邸に、昨今都を騒がせている盗賊が現れたという噂は、瞬く間に京中を駆け巡った。






白縫山の火影童子といえば、人ならぬ力を持ち、誰にも知られずに数々のお屋敷に侵入し、気づかれないうちにあらゆる宝を盗み出してしまうという。





そのため、一種の伝説として、常に巷の話題になっているのだ。







しかし、今回はどうやら失敗したらしいと、人々は好奇の表情で噂しあっていた。








ーーーーーその頃、当の右大臣邸では。





異形の姫君が、人知れず、異形の青年を匿っていた。





薬師による迅速な手当てと六の君の献身的な介護の甲斐あって、致命傷かと思われた怪我を負いながらも青年は一命をとりとめた。






今も、塗籠に隠された青年は、無愛想な顔でむっつりと黙りこんだまま、褥に横たわっている。






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