*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
晴れやかな汀の笑顔に、露草は返す言葉もなかった。





その時。




しんと静まり返った塗籠に、妻戸を軽く叩く音が聞こえた。






女の声で、小さく告げられる。






「………殿のお越しでございます」






父の兼親の来訪を知り、汀は几帳の陰で姿勢を正した。







「………六の君よ。入るぞ」






「……………」







汀はわざと答えなかったが、兼親は当たり前のように入ってきた。








几帳の向こうに見える汀の影をじっと見据えながら、兼親は畳の上に座った。








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