*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「父上がわたくしを春宮さまに入内させようとなさるのは………なぜですか」






その問いもまた、兼親にとっては予想外のことだった。




怪訝な顔をして、当たり前のように答える。






「それはもちろん、お前が春宮さまの女御になるのは、この家全体にとって喜ばしいことだからだよ。



さらに言えば、お前が春宮さまの御子をお産み申し上げれば、末長く我が家門は安泰だからな」







その言葉を聞いた瞬間。






汀はすっと立ち上がった。







几帳の上から汀の顔が覗き、兼親は大袈裟に目を瞠った。







「………な、どうした、六の君」







動揺している父の顔を、汀は冷ややかに見つめた。








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