*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「…………せめて。


せめて、嘘でも………わたくしの幸せのためだと、仰ってくだされば。



そうしたら、わたくしは、父上の愛を信じることができましたのに………」







どこか寂しげに曇った眉の下、薄花色の瞳が真っ直ぐに兼親を見つめる。







「………わたくしは、やはり。



父上にとって、ただの絡繰人形なのですわね。



高貴な御方の子を産み、この家の繁栄を助けることでしか意味を成さない………子を産むための絡繰人形なのですね」







思いがけないきつい言葉に、兼親はすぐには返す言葉もなかった。







「…………い、いや、違う。


そんなつもりは毛頭ない。



私はもちろん、お前の幸せが第一だ。


さらにそれに加えて、一門の繁栄があるというだけだ…………」







しかし汀は静かに首を振った。




今となっては、そんな言葉はあまりにも儚かった。








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