*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「ねぇ、蘇芳丸(スオウマロ)」
六の君は青年の横に座り込み、にっこりと笑って話しかける。
「ねぇねぇ、蘇芳丸ったら」
「…………」
しかし青年は、全く反応を見せない。
表情ひとつ変えずに、窓のない塗籠の壁の一点に視線を向けたままだ。
その横顔は、はっとするほどに端正に整っている。
どこか冷淡な印象を与える琥珀色の双眸は、睫毛の長い、切れ長の奥二重で、すっきりとした印象を見る者に与えた。
その瞳をじっと覗きこみながら、六の君が唇を尖らせていじけたような面持ちになる。
「………もう。どうして返事をしないの?
口がきけないわけでもないでしょうに」
「……………」
青年はやはりむっつりと黙り込んだままの無反応だ。
六の君は、ふぅ、と息をついた。
「まったく、仕方がないわねぇ」
ぼやきながら、傍らに置かれた高坏(たかつき)に載せられた器と匙を取り上げる。
「はい、蘇芳丸。ごはんよ〜」
六の君は全くめげずに、にこにこしながら匙に粥をすくい、青年の口許まで運んだ。
六の君は青年の横に座り込み、にっこりと笑って話しかける。
「ねぇねぇ、蘇芳丸ったら」
「…………」
しかし青年は、全く反応を見せない。
表情ひとつ変えずに、窓のない塗籠の壁の一点に視線を向けたままだ。
その横顔は、はっとするほどに端正に整っている。
どこか冷淡な印象を与える琥珀色の双眸は、睫毛の長い、切れ長の奥二重で、すっきりとした印象を見る者に与えた。
その瞳をじっと覗きこみながら、六の君が唇を尖らせていじけたような面持ちになる。
「………もう。どうして返事をしないの?
口がきけないわけでもないでしょうに」
「……………」
青年はやはりむっつりと黙り込んだままの無反応だ。
六の君は、ふぅ、と息をついた。
「まったく、仕方がないわねぇ」
ぼやきながら、傍らに置かれた高坏(たかつき)に載せられた器と匙を取り上げる。
「はい、蘇芳丸。ごはんよ〜」
六の君は全くめげずに、にこにこしながら匙に粥をすくい、青年の口許まで運んだ。